遠野キュイジーヌ

2022年の思い出といえば、何といっても「遠野キュイジーヌ」が発売されたことです。

国内外から食に通じたゲストが数多く訪れる「とおの屋 要」。佐々木要太郎さんのもとに通って撮影した写真を百点近く収録してもらえるとは、夢のようなことでした。本の制作の途中で前半が写真、後半が文章という構成に変わったことで、より両方の良さが際立ったように思います。

この撮影で印象深いのは、友人から借りたおそらく数百年前の重厚な古材が、写真が表現する世界を決定づけてくれたことです。無名のカメラマンの私が撮影することになり、佐々木さんはさぞかし不安に思われたでしょうが、撮影が終わったときに「東北の暗さを表現してくれてありがとう」とおっしゃってくださいました。そのときの感激は忘れられません。黒く煤けたような風合いの分厚く重い板が果たしてくれた役割は、大きかったと思います。東北に伝わる発酵という保存の知恵も、食料が乏しい季節を乗り越えるため、命懸けで研ぎ澄まされたもの。現代に生きる私たちは、豊かさの仮面を被りながら感性は鈍っているのだと、佐々木さんとの会話のなかで思い知らされました。

出版を記念して、銀座の森岡書店で二週間展示ができたのも幸運でした。たくさんの方が訪れてくださり、最後の週末には佐々木さんが在廊されて、新作のお酒の試飲会も行われて賑わいました。すべてがキラキラした、楽しい思い出です。以下はそのとき展示した写真です。展示の際の木製の額は「空と海」にオーダーして製作、写真にピッタリ合っていると評判になりました。

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